近年、SlaterのAPW 法を拡張したLAPW法が開発され、2001年にはSchwarzらにより新しいAPW+lo法が示されました。

 LAPW法

線形化補強平面波(LAPW)法は、結晶の電子構造を計算するための最も精度の高い手法の一つで、電子の交換・相関相互項を局所スピン密度近似(LSDA)等により表わす、密度汎関数理論に基づいています。これまで複数のLSDAポテンシャルが利用されてきましたが、最近では、一般化密度勾配近似(GGA)を 用いる改良法がよく利用されています。原子価の電子状態には、スカラー相対論(Koelling and Harmon 77)またはスピン軌道相互作用を含む第二変分法(Macdonald 80, Novak 97)により、相対論の効果を取り入れることができます。なお、内殻電子は、完全に相対論的に扱うことができます(Desclaux 69)。

SlaterによるAPW法を線形化したLAPW法のプログラミングに関する手引きは多くの文献で解説がなされています。(Andersen 73, 75, Koelling 72, Koelling and Arbman 75, Wimmer et al. 81, Weinert 81, Weinert et al. 82, Blaha and Schwarz 83, Blaha et al. 85, Wei et al. 85, Mattheiss and Hamann 86, Jansen and Freeman 84, Schwarz and Blaha 96) D. Singh(Singh 94)による優れた書籍では、LAPW法について詳細な解説がなされており、この手法に関心のある研究者にとって有益でしょう。LAPW法の詳細はこれらの成書に譲ることにし、ここでは、基本的な概念を要約するだけにとどめます。

多くの``エネルギーバンド法''がそうであるように、LAPW法は、コーン-シャム方程式を解くための一つの手法であり、結晶の電子状態を記述するのに適した基底系を導入することで、基底状態の電子密度、全エネルギー、多電子系の(コーン-シャム)固有値(エネルギーバンド)を求めることができます。

図1:ユニットセルの分割、原子球(I)と格子間領域(II)

LAPW法は、ユニットセルを(I)重なりのない原子球(原子位置に中心をもつ)と(II)格子間領域に分割することにより実現され、これら2つの領域において、異なる基底系を用います。

(I)半径 Rt の原子球 t の内部を、動径波動関数 Rt と球面調和関数 Ylm(r) の積の線形結合で表します(前後関係から明らかな場合は t を省略します)。

ここで、 ul(r,El) は、エネルギー El (通常、l的な性質をもつバンドの中央のエネルギーが選ばれます)と原子球 t 内部のポテンシャルの球対称部分をもつ動径シュレーディンガー方程式の(原点での)正則解です。 dot ul は、同じエネルギー El で与えられる ul のエネルギー微分です。これら二つの関数の線形結合が、動径関数の線形化を構成しています。 係数 Alm と Blm は、 kn に依存する関数になり(下記参照)、基底関数がそれぞれの平面波(PW)に対応する格子間領域の基底関数に適合する(値と傾き)という要請によって決定されます。 ul と dot ul は、球内部の動径方向のメッシュを用いた、動径波動関数の数値積分により求められます。

(II)格子間領域では、平面波基底が用いられます。

ここで、 kn=k+Kn であり、 Kn は逆格子ベクトル、また k は、第1ブリルアンゾーン内の波数ベクトルになります。各平面波は、全ての原子球内において、atomic-likeな関数により補強されています。

このようなLAPWを結合した基底系を用いて、(linear)変分法にしたがい、 Kohn-Sham方程式を解きます。

係数 cn は、Rayleigh-Ritz(変分原理)法により決まります。この基底系の収束は、カットオフパラメータ RmtKmax= 6 - 9 により制御されます。ここで、 Rmt は、ユニットセル内の最小原子球半径、 Kmax は、式(2.6)の K ベクトルの最大値(大きさ)です。

線形化を改良するため(基底の柔軟性をあげる)、またセミコアと価電子を一つのエネルギー枠で扱えるようにするため(直交性を保証)、基底関数( kn に非依存)を追加することができます。この基底は、"ローカルオービタル(local orbitals)" (Singh 91)と呼ばれ、異なる 2つのエネルギー(例えば、 3s と 4s エネルギー)による、2つの動径波動関数、および1つの(いずれか一方のエネルギーにおける)動径波動関数のエネルギー微分の線形結合によって表わされます。

係数 Alm 、 Blm 、および Clm は、 φLO が規格化され、原子球の境界で傾きと値がゼロになるという要請から決定されます。

 APW+lo 法

Sjöstedt, Nordström と Singh (2000)らは、原子球面上で、平面波の値と傾きをそろえるという余分な制約を伴う標準的なLAPW法は、SlaterのAPW法を線形化する最も効率のよい方法ではないということを示しました。 標準的なAPW基底を用いれば、計算効率は良いです。但し、線形固有値問題として解くために、エネルギーが El に固定された ul(r,El) を用います。そして、動径基底関数に十分な柔軟性を持たせるために新しいローカルオービタル( lo )を追加します。

この新しい lo (2.7式のLOと区別するため小文字で記述)は、従来の"LAPW"基底系と同じような形をしていますが、 kn には非依存で、 Alm および Blm は、原子球の境界で lo が0になり、規格化されるという条件から求められます。

このようにして、原子球の境界に"キンク(kinks/ねじれ)"を持つ基底関数を構築します。そして、それはハミルトニアンの運動エネルギーの部分に表面の項を含むことを要求します。注意、ただし、全波動関数は滑らかに接続され、微分可能である必要があります。

Madsen et al. (2001)により示されたこの新しいスキームは、事実上LAPW法と同一の結果に収束します。しかし、``RKmax''の値を小さくことができ、少ない基底系(最大50%)で計算できるため、計算時間を大幅に短縮することができます(最大一桁)。 1つの計算の中で、``LAPW および APW+lo''基底を同時に利用でき、異なる原子、または同じ原子の l ごとに、別々の基底を用いることができます。(Madsen et al. 2001) 一般に、遷移金属の3d状態のように平面波の数を増やしても収束の遅い軌道や小さな原子球を持つ原子の軌道に対して、 APW+lo基底を用い、そうでない軌道にはLAPW基底を用います。 また、セミコアと価電子帯を同時に記述するために、異なるエネルギーによる第2の``LO''を加えることもできます。

 概論

一般的な形式では、LAPW法は、ポテンシャルを次の形で展開します。

これは、電荷密度も同様です。球対称近似を利用していないため、この手続きは、しばしば``フルポテンシャル''法と呼ばれます。

従来のバンド計算で使われていた``マフィンティン''近似は、 (2.10)の最初の式において、 L=0 と M=0 の成分のみ、また第二式では、 K=0 のみの成分を保持することに相当します。この(旧式の)手続きは、球の内部では球状平均を、また格子間領域では体積平均をとることに相当します。

全エネルギーは、Weinert et al. 82にしたがって計算されます。

ハートリー原子単位が使われる原子関連のプログラム(LSTARTとLCORE)および一部のサブルーチン(LAPW1, LAPW2)を除いて、内部的にはリドベルグ原子単位を採用しています。なお出力は、常にリドベルグ単位で与えられます。

原子の力は、Yu et al (91)にしたがって計算されます。 WIENの実装形式は、Kohler et al (94) and Madsen et al. 2001を参照してください。 Soler and Williams (89)による別の形式も、既に検証されており、計算効率や数値精度において、等価であることがわかっています(Krimmel et al 94)。

改良された四面体法(Bloechl et al. 94)、ガウシアンブロードニングまたは温度ブロードニング法を使用し、フェルミエネルギーと各バンド状態の重みを計算することができます。

基底にスカラー相対論的な固有関数を用いた第二変分法により、スピン軌道相互作用を扱うことができます (MacDonald 80, Singh 94 and Novak 97を参照)。 スカラー相対論的な基底( p3/2 に対応)において、 p1/2 を失った動径基底関数の問題に対処するため、 p1/2 ローカルオービタル、すなわち、 p1/2 基底によるLO、を追加し、標準LAPW基底を拡張しました。これらは、第二変分法によるスピン軌道相互作用(SO)計算で利用できます(Kunes et al. 2001)。

電子が局在している場合(ランタニドの4f状態、幾つかの遷移金属酸化物の3d状態など)、 LDA(GGA)法は、十分な精度を持たないことはよく知られています。この問題に対処するため、各種LDA+U法および``軌道分極(OP)法''が実装されています (Novak 2001 and references thereinを参照)。

外部磁場(Novak 2001を参照)または外部電場(スーバーセルアプローチ, Stahn et al. 2000を参照) による相互作用を考慮することができます。

 プロパティ

Blöchl et al. 94による改良されたテトラへドロン法を使用し、状態密度(DOS)を計算できます。

フェルミの黄金率と双極子の行列要素(コア、価電子、電導バンド帯間)により X線吸収および蛍光スペクトルを計算できます(Neckel et al. 75)。

電荷密度のフーリエ変換によりX線構造因子が得られます。

Ambrosch et al. 95,Abt et al. 94, Abt 97および特にAmbrosch 06による個々の双極子の行列要素を修正した``結合状態密度(Joint density of states)'' を用いて、光学特性が得られます。また、Kramers-Kronig変換も可能です。

J. Sofo and J. Fuhr (2001)によるプログラムを用いて、 Bader's ``atoms in molecules''理論に基づいた電子密度の解析を行うことができます


引用文献

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